イソップはこれまで、多岐にわたる方法で私たちの知的好奇心を刺激する芸術活動の探求や支援を、世界各地で行ってまいりました。日本人アートディレクター・禰冝田大然氏が主宰する「ephemera(エフェメラ)」プロジェクトもその一つです。
儚さを綴じる試み
「ephemera」は、禰冝田氏らが、感覚を共有する各国の表現者との協働を交えて、「唯美主義的生活の実存を意図する」キュレーション/デザインプロジェクトです。「あらゆる創作活動は(言葉と視覚素材による)スケッチから始まる」という信念のもと、目下、カイエ(雑記帳)や随想集をモチーフとしたマガジンの編纂が進められています。この度イソップでは、その先行出版として刊行される「etude edition(エチュード・エディション)」を、イソップ 東京店にて展示いたします。
「etude」は、マガジンのコンテンツの中から、各号一つのストーリーに焦点を当て、大判の「壁にかけられる」出版物として制作されています。シリーズの序章となる、#1、#2 では、フランス人写真家・フランソワ・フォンテーヌ氏との協働により、追想の世界の魅惑や当惑が描かれています。「『壁にかけられる』というキーワードは、プロジェクトを構想する上で、重要なレファレンスとなった、アーネスト・ヘミングウェイの著作『移動祝祭日』の一場面に由来しています。また、フランソワとのコラボレーションにおいては、記憶に関するミラン・クンデラの記述に着想を得、個人的な物語を重ねて描いています(禰冝田氏)」。
「ephemera」は、「儚いもの」という原義を持ち、転じて「蜉蝣」「一日花」「一時的な用途のための筆記物・印刷物」等を意味する言葉です。タイトルは、氏が美術学校に通っていた若き日に啓示を受けたという、次の一節に由来しています。 「儚さこそが重要である。そこに美が存するのだ」。 「このプロジェクトにおけるあらゆる制作機会において、このタイトルと、それが導く世界観とを、コンセプチュアル且つ審美的に展開させようと努めています。例えば、この『etude』の佇まいにも、このような展示の手法にも、それらは純粋に反映されています(禰冝田氏)」。 イソップ東京店では、今後折々刊行されていく「etude」を、新号のリリースや季節の移ろいに合わせてアップデートしながら、年間を通じて展示してまいります。店内奥の壁面には、16世紀に由来するデコパージュの手法になぞらえて額装された「etude」の一場面を設え、店内奥のテーブルでは、実際に手に取ってご覧いただけます。(時期により、テーブル上に展示していない場合もございます) 「このプロジェクトのもう一つの目的は、感覚を共有する者同士を媒介し、ソサエティを形成することです。かつて、パリやウィーンのカフェにあったような光景に立ち会いたいという、ボヘミアン的空想を抱いています(禰冝田氏)」。多士済々のソサエティが織り成す「儚い」色の美世界をお楽しみください。
デザイナー、アートディレクター。英・セントラル・セント・マーティンズ美術大学に学んだ後、いくつかの工房やデザインスタジオを経て独立。総合芸術的なアプローチを志向し、空間デザイン、プロダクトデザイン、コミュニケーションデザインの諸領域を基軸に、多様なデザイン、制作活動に取り組んでいる。2020年、デザイン、アートディレクション、キュレーションを並び行い、「唯美主義的生活の実存を意図する」プラットフォームとして、「ephemera」プロジェクトを始動。翌年、「ephemera ltd.」を設立。1976年、静岡県生まれ。