1924年に運行が開始された熊本の路面電車は、街に受け継がれる豊かな伝統とアイデンティティ、持続可能な形で都市交通を維持する意志を運びながら今日も走っています。街のランドマークや地域社会、そこに暮らす人々をつなぐ路面電車は街の一体感を醸成します。日本中の交通手段がよりスピードの出る方へと目まぐるしく近代化していく中、熊本の路面電車はいつもそこにあり続けました。車両をそっくり変えてしまうのではなく既存のものをアップサイクルして使用する取り組みなど、年月によって育まれた魅力と現代における利便性の塩梅こそが熊本市電を真に特別な存在にしています。昔からあるものへの敬意と実用主義が同時に共存するこの有りようは、私たちのストアデザインチームおよび長年のパートナーであるマルソリエ・ヴィラコルタ(Marsollier Villacorta LLC)を通じてイソップ熊本鶴屋の店内空間にも反映され、市電運行開始からちょうど100年を数える年に息吹を得ました。店舗のすぐ目の前を行き交う路面電車の線路は、地域の公共交通機関が持つ独自の存在感への敬意を込めて、イソップが静かに捧げるオマージュ空間への道すじを示します。
イソップ熊本鶴屋
直営店
営業時間
- 月曜日10:00am - 7:00pm
- 火曜日10:00am - 7:00pm
- 水曜日10:00am - 7:00pm
- 木曜日10:00am - 7:00pm
- 金曜日10:00am - 7:00pm
- 土曜日10:00am - 7:00pm
- 日曜日10:00am - 7:00pm
一時的な営業時間の変更や休館等については、恐れ入りますが各商業施設の公式ホームページをご確認ください。



マルソリエ・ヴィラコルタ(Marsollier Villacorta LLC)が格別に心を惹かれたのは1970年代の車両の内装で、シートには派手と形容してもいいほどの堂々とした緑色にアクセントとなる柄があしらわれた布張りがしてありました。また実際に何度も乗車して目にしたディテール、たとえば丁番の金具や一定のパターンを以て配置された留め具、孔が開いたスピーカーの水玉模様、アナログの照明、角に少し丸みを帯びた吊り下げミラーなどが抽象的な内装表現に落とし込まれたうえで、この地にあるイソップならではの言葉を発します。店舗のロケーションはもともとアトリウム内のステージが設けてあった場所で、路面電車の車内空間とは真逆の条件を備えていました。天井まで見上げる吹き抜け、横180度に渡ってオープンな空間が広がり、照明は非常に明るいものでした。店舗を手掛けた建築家の面々は、立地の開放性を残しつつも車両の中にいるような密室感覚を創出し、この場所を一種のサンクチュアリへと変貌させてみせました。街を縫うように巡る路面電車と同じく製品棚はカーブを付けて配置され、また車内の手摺りにインスピレーションを得て特別注文したクローム仕上げの照明が、各棚の頭上に光を投げかけます。車中で見かける数々の幾何学パターンを反映したシンクおよびカウンターは角が丸く優しい印象で、よいものを修理して繰り返し使う精神と機能美とが出会う空間へと訪れた人を迎え入れます。